2010年8月24日火曜日

父親の産後うつに関して その6

日本における父親の産後うつに関する調査のつづきです
Risk factors of paternal depression in early postnatal period in Japan
LINK http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1442-2018.2010.00513.x/abstract - 2010 - Nursing & Health Sciences - Wiley Online Library

この英文の報告は、2007年3月から7月にかけて行われた調査です。この時期はと思い起こしてみると、まだ、リーマンショックが起こっていない頃、(実感のない)戦後最長の景気回復といわれている時期です。
地域によって、景気回復の度合いもさまざまなので、調査が行われた地域も重要です。この調査で実際に、調査が行われた地域は、大阪府と兵庫県になります。

調査の方法については、前回に詳細を書きましたが、産後一ヶ月健診の際に、うつ病に関する調査用紙を手渡して、記入後返送してもらう方法で調査しています。
「うつ」の調査の方法にはこのような質問用紙を用いる方法ではなくて、実際に話しをしたうえで診断するといった、面接方式もありますが、この調査では面接方式ではなく質問用紙を用いる方法をとっています。
そのため、質問用紙の回答がある点数以上の場合に、「うつである」としています。

以上を踏まえて、調査の結果を見てみます。

回収された質問用紙から分析に用いることができたのは、133名の父親です。
これらの133名から「うつ」であった父親は
19名  14.3%
でした。

19名中、精神科治療を過去にうけていたのは
6名   31.6% (6/19)
うつ病もしくは不安障害の既往歴があるのが
3名   15.8%(3/19)
で、いずれも、うつ病ではなかった(質問用紙のスコアが基準未満であっった)父親における比率よりも有意に高率でした。

また、19名中7名が非正規雇用もしくは失業中で、
うつ病ではなかった父親での比率 114名中1名 よりも有意に高率でした。

いっぽう、今回の妊娠が予期しない妊娠であったかどうかの質問項目が設けられており、
今回の妊娠が予期しない妊娠であった父親は、全体133名中の13名でした。
この13名の内訳を見てみると、

うつであった19名中、予期しない妊娠であったのが6名、31.6%、
であったのに対して、
うつではない114名中では7名、6.1%であり、

有意差をみとめています。


129名の父親については、母親の質問用紙も同時に回答されていました。
この結果を利用して、父親の「うつ」と母親の「うつ」との関連を調べています。

父親が「うつ」であった18名中、母親も「うつ」であったのが8名 44.4%であるのに対して、母親は「うつ」ではなかったのが10名55.6%でした。

逆に母親が「うつ」であった41名中、父親が「うつ」であったのは、8名とほぼ2割にとどまっています。

なお、父親、母親の両者が「うつ」ではなかっったのが、78名でしたので、129組の夫婦において、夫婦のいずれかが「うつ」であるのが、51名、比率でいうと、39.5%ということになります。

この39.5%という割合は、けっして低いとは言えず、お産後、親のサポートが重要ということがわかります。それも、母親に対するサポートのみを考えれば良いのではなく、父親のサポートも考えなくてはいけません。

この調査では、父親の就業状況が父親の「うつ」のリスクファクターになりうることが見られています。
実際に分娩の場合には、父親の就業状況についても、その背景として把握しておくことが必要でしょう。ただ、妊婦健診の診療録をみても、母親の就業状況についての聞き取りも十分ではないことが多く、ましてや、父親の就業状況は記載する欄さえない場合もあります。

父親の産後うつに関しては、母親が「うつ」に陥った結果として、父親も「うつ」になりうる場合もあるかもしれませんが、父親が単独で「産後うつ」になりうることも考えなくてはいけないと思われます。

2010年8月19日木曜日

父親の産後うつに関して その5

父親の産後うつの話題のつづきです
日本における調査に関する文献の紹介をつづけます。
Risk factors of paternal depression in early postnatal period in Japan
LINK http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1442-2018.2010.00513.x/abstract - 2010 - Nursing & Health Sciences - Wiley Online Library

父親の産後うつの調査に当たって二種類の質問用紙を用いています。

一種類は、うつ病にたいして一般的に用いられている質問用紙CESーD。もう一種類は、女性の産後うつに関する質問用紙EPDS。
というわけで、まず、女性の産後うつに関する質問用紙EPDSにおいて、何点以上(日本の女性の場合には9点以上とされている)の場合に、うつ病と考えてもいいかを決めるところからこの調査は始まっています。
日本版のCESーDにおいては、16点以上とされていることを利用して、EPDSにおいては、Sensitivity Specificityが最大となる点数を計算すると、この研究では父親の産後うつの指標としては、EPDSが8点以上とされました。

以降、父親の産後うつに関しては
EPDSが8点以上 または CESーDが16点以上
として、父親の産後うつの頻度を計算しています。


これからは、
CESーDが16点以上 146人中11人 7.5%
EPDSが8点以上が 146人中17人 11.6%


一方、この調査は産後の一ヶ月健診において母親の分と父親の分の質問用紙を配布しており、母親の産後うつの割合も計算されている

CESーDが16点以上 178人中43人 24.2%
EPDSが9点以上が 178人中50人 28.1%
となっています。

この報告では、父親・母親に対して面接をしたうえで、「産後うつ」の診断をしているのではなくて
上記のように、質問用紙を用いて、カットオフ値を超えているひとを「うつ」と分類している点が特徴であって、通常の母親の産後うつの割合とされている10%を超える頻度となっています。

なので、以降の分析は、質問用紙の回答から、うつ病のスコアがカットオフ値を超えている人を
対象としている、ということを前提に読み進めていく必要があります。

(つづきます)

2010年8月16日月曜日

今日の東京は今年一番の暑さです

さて、今日は、男性の産後うつのブログはちょっとお休みです。


今年の夏はなんか暑すぎる。今日は今年一番の暑さ似なろうという東京。13時現在の気温は35.7℃だそうな。
東京練馬ではもう37℃になっているともいう

梅雨があけたのがちょうど海の日の頃。その頃から連日35℃を超える猛暑日がつづいた。
八月に入って、すこしだけ涼しくなったり、先週は台風の影響からか、ややすずしい空気が入り込んだりして、ようやくましな夏になってきたかなあっておもっていた矢先の今日の暑さ。

ここ数年はどうだったかなあと思い出してみると、たしか去年の夏休みは長女の学校のプールがあんまりなかったように記憶があるので、曇りや雨の日があったのかもしれない。

子供達としては、すっきり晴れてプールにはいれるのが楽しいみたい。とはいっても、今週は小学校のプールはなくて、来週まで待たなくてはならないし、保育園のプールもお盆休みの関係で先週の金曜日と今日の月曜日はないらしい。

プールの再開が待ち遠しい子供達。
そういえば、自分はほとんど泳げなかったので、夏休みのプールが嫌だったのを思い出した。熱を測る度に、熱があったらいいのにっておもっていた。

そんな、自分から、水泳大好き、ダンス大好き、の活発な娘が産まれるんだから不思議なもの。なんかうれしい。
って、妻は水泳部だったようなので、そういうことかもしれない。

にしても、この暑さがすこし落ち着かないと、文献読む気もおきない。
そんな、真夏の午後です。

という、言い訳をしておいて、産後うつのブログは今週中にはつづきを書きますね。

では

2010年8月12日木曜日

父親の産後うつについて その4

さて、海外の報告についてはみてきたが、日本に目を向けてみる
英文の文献ではあるが、日本における父親の産後うつに関する調査報告を紹介する。
その文献は
Risk factors of paternal depression in early postnatal period in Japan
である。
LINK http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1442-2018.2010.00513.x/abstract - 2010 - Nursing & Health Sciences - Wiley Online Library

この報告では、お産の1ヶ月健診のときに、質問用紙を配布し、回答のあったものを分析している。
質問用紙は、母親の分と父親の分を渡している。

対象となったのは、510組の夫婦。
この510組に対して質問用紙を渡したところ、181人の母親、156人の父親から回答がえられた。

この156人の父親の回答から、分析に使えると判断した133例について分析している。
なお、質問用紙は、自己回答式の質問用紙であり、
EPDS (Edinburgh Postnatal Depression Scale)
CES-D (Center for Epidemiologic Studies Depression) Scale
の二種類である。

EPDS:たとえば次のリンク先に見本あります(PDFです) www.mie.med.or.jp/hp/doctor/boshi/pdf/boshi09.pdf
CES-D:たとえば次のリンク先に見本あります www.ne.jp/asahi/akira/imakura/CES-D.htm

CESーDは、20項目からなる質問用紙で、それぞれに0点〜3点をつけて、その合計点を計算する。
満点は60点であるが、16点以上の場合に、うつ病の可能性が高くなると言われている。

EPDSは10項目の質問からなり、それぞれの項目に関して0点〜3点の四段階の得点をつけ、その合計点を算出します。
イギリスでは13点以上の場合に産後うつ病のリスクが高いと判断されます。この点数は国ごとに異なると考えられており、スウェーデンやフランスでは12点以上、中国では10点以上、日本では9点以上と言われています。
じつはこのEPDSは、女性を対象に作られているので、男性に対しても用いていいのかどうかを考えなくてはなりませんが、男性に対してEPDSを用いた報告がいくつか存在しています。2001年にはオーストラリアでは男性に対して用いた報告があります。このオーストラリアの報告では、女性では8点以上としているのに対して、男性では6点以上としています。
この研究では、EPDSの点数において、何点以上の場合に産後うつと評価して良いかをまず、検討している。

(つづきます)

2010年8月11日水曜日

父親の産後うつについて その3

父親が、妊娠に関連して発症するうつの割合が10.4%というのだが、この数字を考えてみる。
アメリカの統計では、一年間で4.8%の男性が鬱病を罹患しているという統計がある。

10.4%はこの4.8%よりも明らかに高く、男性の産後うつ(および産前のうつ)が大きな問題となりうることを意味している。

その一方で、10.4%について、詳しくみてみたところでは
アメリカ国内だけに限ると、その値は14.1%(95%Cl 10.9%-18.0%)と増加する。その反面、アメリカ以外で計算すると8.2%(95%Cl 5.9%-11.1%)と低下している。
このように、当たり前ではあるが、父親の産後うつに関しては、国によってその頻度が異なっていることが見えてくるのである。

この報告をうけて書かれたLancetの記事
Postnatal depression : fathers have it too
LINK http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(10)60853-7/fulltext : The Lancet

では、文化的、社会的な違いが、父親の産後うつの発症を防いでいる可能性(preventive effects)に触れ、ヨーロッパでは、父親の産休制度が機能していることを紹介しています。

さて、日本での産後うつについてはどうだろうか?
(つづきます)

2010年8月10日火曜日

父親の産後うつについて その2

さて、父親の産後うつがどのくらいの頻度で起こりうるといわれているのだろうか
実は、この分野については研究は比較的最近であり、まだあまり多くの調査がなされていない。
レビューをみてみると、この分野のパイオニアとなる研究はオーストラリアでの研究であるようで
2004年に発表されたCondonらの報告
The first-Time Fathers Study : a prospective study of the mental health and wellbeing of men during the transition to parenthood
であるという。
LINK http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14731195 [Aust N Z J Psychiatry. 2004 Jan-Feb] - PubMed result
(この報告については手に入り次第また、書いてみようと思う)

そんななか、このブログを書くきっかけともなったメタアナリシスを紹介しておく。
Prenatal and Postpartum Depression in Fathers and Its Association With Maternal Depression
(JAMA May 19,2010 Vol.303 No.19)
LINK http://jama.ama-assn.org/cgi/content/abstract/303/19/1961 - JAMA

このメタアナリシスでは、1980年から2009年10月までに公表されている文献などを対象としています。
検索の上で256の研究報告を対象とし、内容を吟味した上で、43の研究報告から、父親のうつの頻度を導いています。

その結果は、
父親のうつの頻度は
10.4% (95%Cl 8.5%-12.7%)
という。
この10.4%というのは、妊娠初期~出産1年後までの期間における頻度になります。

そこで、では、出産前後や出産後ある程度期間が経った場合の父親のうつの頻度は?というのがつぎに示されています。

まず、出産後の父親のうつの頻度から、

出産直後ー3ヶ月   7.7%   (95%Cl 5.3%-11.1%)
出産3ー6ヶ月     25.6%  (95%Cl 17.3%-36.1%)
出産6ー12ヶ月    9%    (95%Cl 5%-15%)

と、出産後3ヶ月における頻度は低いものの3ヶ月ー6ヶ月では高頻度になり、その後、減少しています

いっぽう、出産前についても報告しており
妊娠前期および中期  11% (95%Cl 6%-18%)
妊娠後期         12% (95%Cl 9%-15%)
という。

ではこれらの数字をどう解釈して行くのがいいだろうか

(つづきます)

2010年8月9日月曜日

父親の産後うつについて その1

最近、産後うつに関して広く報道されてきています。
今日も、ファザリングジャパンが緊急フォーラムを開催する予定になっています。こどもの御迎え→ご飯づくりが終わったら、自分もフォーラムに参加してみようとおもっています。
などと、予定していたら、そういえば、父親にも産後うつが発症するという文献についてのニュース記事をみたなとおもったので、文献を調べてみると、今年の5月にそのニュース記事がありました。
LINK http://jp.reuters.com/article/oddlyEnoughNews/idJPJAPAN-15406420100520 - 父親となる男性の1割が「産後うつ」に=米研究 Reuters


そこで触れられていた文献は
Prenatal and Postpartum Depression in Fathers and Its Association With Maternal Depression
(JAMA May 19,2010 Vol.303 No.19)
LINK http://jama.ama-assn.org/cgi/content/abstract/303/19/1961 - JAMA

という文献で、今年の5月にJAMAに掲載されていました。
あえて、訳せば、「父親の出産前および出産後のうつ。および、母親のうつとの関連性」でしょうか。
大学の図書館で文献をコピーしてきたついでに、関連文献をいくつか読んでみたので、ひさしぶりにブログを更新してみました。

どの文献もイントロダクションとして、産後うつの一般論から入っています。
母親の産後うつの発症率が10〜30%であり、母親の産後うつに関しては広く知られていること、が触れられています。
これにつづいては、父親の産後うつにかんしてはあまり知られていないこと、いままでほとんど調べられてきていないことが書かれています。
文献の題名からもわかるように、「産後」うつ、だけでなく、妻が妊娠中に父親のうつが発症することもあります。

いわゆるうつの発症に、「昇進」うつなど、人生における転機がうつ発症のきっかけになりうることは広く知られていることです。同様に、出産を機会として、父親にうつが発症するということについても、以前からわかってはいたことと思われます。
とはいうものの、父親がこどもの誕生を機会にして、どの程度の割合でうつを発症するのかについて着目した研究や調査はほとんどなかったようです。
そのため、あるレビューでは、父親の産後うつに関してのまとまった報告は2004年ごろにはじめてでてきたとありました。

つづきます